管理医師のブログ

2014年11月 2日 日曜日

医療否定本考〈4〉

「延命治療」問題が【脳死】とか【胃瘻を介した栄養管理】とかで議論されているのは広く知られています。しかし、近年、医療否定本などでは【緩和医療=がんの麻薬を使用した疼痛管理】にまで、「延命治療」問題の領域を拡げてきているようで、【緩和医療】も無駄と言っている医療否定本すらあります。さらには、我々、循環器内科の領域である【血圧管理】にまで「降圧剤(血圧を下げる薬)の内服も延命治療であり、無駄な治療、無意味な治療。無駄な治療である証拠に長生きしているヒトは降圧剤なんか、内服してない。」というような発言まで聴かれる始末。「延命治療」問題を拡大解釈するにも程があります。

【脳死】【胃瘻を介した栄養管理】【緩和医療】問題に意見を述べるのは、佐々木には少し荷が重いので、ここでは割愛しますが、医療否定本の中で我々循環器内科医が診療所で日日の診療にあたっている行為すら、延命治療、無駄な治療、無意味な治療、の類(たぐい)と切り捨てていることには憤りを覚えます。著者先生のおっしゃりようでは、我々循環器内科医の管理のもとにないと日常生活が困難な患者さんがいらっしゃいますが、これらの患者さんを無駄な存在、無意味な存在と切り捨てていることに等しいじゃないですか。これに憤りを覚えるのです。ご自身のことを生命与奪の権利を手にした神であると勘違いされているのではないでしょうか。

それに【降圧剤を飲んでいない元気で長生きのヒトがいる】からって、【降圧剤を飲まなきゃ長生きできる】と結論するのも噴飯もの。著者先生は数的に【降圧剤を飲まずに長生きのヒト】>【降圧剤を飲んで長生きのヒト】であることを証明しようとしないし、せいぜい「私(著者先生)の患者さんに限っては...」を冒頭につける程度。仮に【降圧剤を飲まずに長生きのヒト】>【降圧剤を飲んで長生きのヒト】であったとしても、読者が【降圧剤を飲まずに長生きのヒト】グループに入ることを著者先生は原稿用紙の向こう側からどうやって確信するのでしょう。また【降圧剤を飲んでこそ長生きできるのヒト】へのメッセージは【降圧剤を飲まなきゃ長生きできないのなら、降圧剤による治療は延命治療なんだから、もう死んじゃいなさい】ってことなんでしょうか。著者先生の著作物にはこういった配慮というものが感じられません。


■ 延命をはかるのが仕事なんですが...
【血圧管理】を含む循環器内科医の仕事が「延命治療」と言われるようだったら、望むところ。致命傷となったり、ハンディキャップとして後遺症が残るような脳卒中や心筋梗塞の発症を少しでも先送りすることが仕事と心得て、日日の診療業務にあたっているからです。例えば、70歳で脳卒中になる患者さんの運命を80歳にまで発症時期を遅らせることができれば、患者さんに実りの収穫時期ともいうべき人生のゴール直前の10年間をプレゼントすることができます。こういう思いですから「延命治療に過ぎない。」と揶揄されてもブレることはありません。ヒトは永遠に生きれるわけではないので、必ず死を迎える場面はあるのですが、それでも、知りうるすべての術を施して、徹底的に延命策(=致命傷となる疾病の先送り策)を講じることが使命と心得ています。

話が飛び過ぎてついてこれないかもしれませんが...「墨攻」(酒見賢一/著、1994)という小説を読んだ時の気持ちを思い起こします。1988年卒ですからまだ兵庫医大病院で無給医員をしてた頃ですね。小説は、中国の戦国時代、【趙】の大軍勢が地方の小さな城である梁城を囲み、攻城戦を展開するわけですが、これに立ちはだかるのは、軍師【革離】ひとり、さあ、どうする?みたいな小説です。【趙】軍はさまざまな攻城策で攻めるのですが、その都度、跳ね返していく【革離】の防御技術の巧さには、舌を巻きます。【趙】の大軍勢がいちどは侵略をあきらめかけたほど。

正攻法では城壁を破れないと悟った【趙】軍はトンネル作戦にでます。地中を掘り進んでくる寄せ手に対して【革離】は【地聴の術】という策を施して、撃退するのですが、循環器内科医としてはこんな【地聴の術】みたいな処方をしてみたい!と当時真剣に思いましたね。先回りして弱点にあらかじめ補強しておくような策を講じることができれば、これほどクールな処方はありません。

読んでみようと思った方には申し訳ない、ネタバラシしますと、結局、梁城は落ちてしまうのですが、最終的には落城するということを知りながらも、尽力するあたり、我々の仕事も先述のように患者さんに永遠の生命を与えることはできないことを考えると相通じるものがあり、共感する部分が非常に多かったです。【寄せ手から城を守ること】と【疾病からヒトを守ること】という違いはあるものの、当時のタダ働きの佐々木に【将来、こんな医療者になりたい】というインパクトを与えるにじゅうぶんでした。

蛇足)なぜ、タダ働きを強調したか?というと【革離】も報酬を拒否したんです。


■ 主 張 4
小説「墨攻」は2時間くらいで読破できるおすすめの短編です。...と、まさしくアフィリエイトみたいになってしまったのですが、この記事はアフィリエイト記事じゃありませんので。
主張したかったのは「我々は患者さんに永遠の生命を与えることはできないが、致命傷となる疾病を回避するために知りうる限りの術を施すことが使命である。」という覚悟です。

(記載、管理医師;佐々木)

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投稿者 医療法人社団ささきクリニック

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